『マーティン・エデン』について
つまりジャック・ロンドンについての話だ。びっくりすることに舞台はイタリアだった。
ジャック・ロンドンってイタリア人だっけ?
映画はまるで『ニュー・シネマ・パラダイス』のクソつまんなかった青年パートを撮り直したかのよう。
当然翻案だった。ジャック・ロンドンに当たる主人公の顔が伊勢谷友介に似ていた。
https://www.hakusuisha.co.jp/smp/book/b373640.html
『野性の呼び声』を読んだのは小学校低学年だったと思う。龍口直太郎訳と思っていたが、調べると違うような気がする。その頃お気に入りだったのは、シートン動物記、ファーブル昆虫記、ビアンキ『森の新聞』、椋鳩十。
動物や虫が好きというより、動物や虫が出てくる「お話」が好きだった。だいたい子供向けの絵本や読み物には、当たり前のように動物が出てくる。
Winnie-the-Poohにパディントン。ピーターラビット、ミス・ビアンカ。ドリトル先生シリーズは動物ものの集大成だろう。
ジャック・ロンドンの『野性の呼び声』は、それらの物語とは、いくぶん様子が違っていた。主役の犬は擬人化されていないし、ほのぼのファンタジーでもない。読み終えてのち、長い間呆然としていた記憶がある。
感動して泣く、というのでもない。いきおい影響を受けて何か書く、というのでもない。(小学生の頃、何か読むとすぐ影響を受けてマルパクの小説もどきを書いていた。ルパンやホームズとか、あしながおじさんの手紙形式とか)
残ったのは乾いた脈動。
シートンやファーブルの博物誌的な叙述と、『森の新聞』の風土性と、椋鳩十のパセティックを足してなお乾いたエモーションがあった。
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784806300076
『マーティン・エデン』のイタリアも、子供の頃の読後感と同じように乾いていた。海がひらけて船が揺れて、登場人物たちは激しく喚いたり愛し合ったりする。エモーションたっぷりなのに、画面はカラカラに乾いた生に満ちていた。
翻案は成功だったのだろうか? 『野性の呼び声』の執筆秘話も小説のワンフレーズも、映画の中には出てこなかったのだけど。